潟上市昭和大久保でタタミ・ふすま・障子の生産を行う有限会社 渡部畳店 本店工場の設計監理。
畳生製造工場として求められたローコスト建築の実現に、大胆な構造的工夫をもって取り組んだ建物。1階には生産ラインの大型機械が並ぶ無柱の大空間、2階に相当量の資材を保管出来る事の2点が条件として与えられた。工場はスパン11m、桁行22mの大空間で2階には倉庫が上がる。一般的には重量鉄骨で計画を行うところを、私たちは建築コストが最も抑えられる在来木造での実現を試みた。
2階倉庫の積載荷重は600kg/u、全面に畳20枚を積み保管する為、梁は150×750の大断面集成材を2本一組で1間毎に配している。通し柱を挟んで添柱を設け、それぞれに鉛直荷重を負担させた。地震や風圧など水平応力に対しては、筋交に加えて構造用合板で壁・屋根全体を包みモノコック構造として対応した。ここまでは一般的な構造的配慮だが、私たちが取り組んだ大胆な構造的工夫はさらに小屋組部分に及ぶ。
屋根架構を耐力に余裕を持たせた木造トラスで計画し、余った耐力に前述の2階床の鉛直荷重を負担させている。具体的には、トラス下部に鉄製の受材を設けて高張力鋼を下げ、2階床を支持する2本1組の大断面集成梁と結んでいる。つまり、倉庫の床を屋根から吊る形式としている。古くから存在する吊り橋の技術から発想を得て、下から支えるのでは無く上から吊ると言う、発想の転換で木造による大空間を実現している。クリープや痩せなど、木材の特性である経年的な不確定要素に備え、金物は将来に各接合部を簡単に締め直せる設計とする等、細部にわたり配慮を行った。
写真:シブヤスタジオ